AIを使っていて、こんな消耗を感じたことはないでしょうか。新しい依頼のたびに、自社のサービス内容、用語の定義、過去の経緯、やってほしくないことを一から説明し直す。優秀なはずなのに、毎回はじめましての相手と話している感覚です。
これはAIの性能の問題ではありません。文脈を「その場で打ち込む入力」として扱っているために起きる、設計の問題です。打ち込んだ前提は会話が終われば消え、次もまた同じ説明から始まります。
プロンプトを磨くより、文脈を置く場所を作る
多くの人は、この問題を「もっとうまいプロンプトを書けば解決する」と考えます。けれど一回の指示文をどれだけ磨いても、前提が毎回消えるなら積み上がりません。
考え方を変えます。良い指示文を都度ひねり出すのではなく、自社の前提を一度きちんと書いて、AIがいつでも参照できる場所に置く。これがコンテキストエンジニアリングの出発点です。問いは「どう書くか」ではなく、「何を、どこに、どう残すか」に移ります。
まず書き出す「自社の前提」
最初に資産化すべきは、説明するたびに繰り返している前提です。具体的には次のようなものです。
- 事業と用語: 何をしている会社か、社内独自の言葉の意味。
- 判断基準: 良い成果物の条件、優先順位、やってはいけないこと。
- 過去の経緯: なぜ今のやり方なのか、すでに試して駄目だったこと。
これらを頭の中から取り出して文書にするだけで、AIへの説明は「毎回」から「一度書いて参照」に変わります。最初は完璧を目指さず、よく説明している順に書き出すので十分です。
文脈は育てる資産として運用する
一度書いて終わりではありません。前提は事業とともに変わります。重要なのは、変更の履歴が残る形で文脈を管理することです。
Markdownのようなテキストで書き、Gitのように変更が追える仕組みに置いておくと、いつ・なぜ前提が変わったかがわかります。誰かの頭の中やチャット履歴に散らばらせず、一つの参照点に集約していく。こうして積み上がった前提の集合が、いわば会社の判断を映す「Company Brain」になります。AIはそれを土台に動くので、説明のやり直しが消え、出力の一貫性も上がります。
まとめ
AIが毎回同じ説明を求めるのは、文脈を使い捨てにしているからです。プロンプトを磨く前に、自社の前提を書き出し、変更を追える場所に置き、育てていく。この一手で、AIは「はじめましての相手」から「前提を共有した相手」に変わります。
まずは、いま一番よくAIに説明し直している前提を一つ、文書に書き出してみてください。それが、自社の文脈資産、そしてAI業務基盤を組み立てる最初の一歩になります。